リヴァプールとシティによる世界最高峰の駆け引き…東大ア式テクニカルによる徹底分析

初めに

前回の記事で紹介していただいたテクニカルスタッフ2年の高橋です。前半の高口が流石の分析力と知識を発揮し、また具体的な試合展開に言及してくれたので、ここからはエリオットのユニフォームを衝動でポチろうとするほどKOPの高橋がリヴァプールを中心にざっくりとしたお話をしていきます。

選手小話

さて今回の初期配置は以下の通り。

リヴァプールの先発メンバーは大方の予想通り。CLとプレミアリーグの過密日程をこなさなければいけないリヴァプールは、基本的にアリソン、ファン・ダイク、アレクサンダー・アーノルド、ロバートソン、ファビーニョ、サラー、マネを固定し、その他のメンバーをターンオーバー気味に起用している。この試合の5日前に行われたCLベンフィカ戦のメンバーを見ればこのメンバー起用は自然であろう。にしても我らがミナミーノやエリオットすらベンチに入れない選手層はさすが。

スタイル

リヴァプールはハイプレス・ハイラインのチーム。もはや珍しくもなくなったゲーゲンプレスを採用し、ボール奪取からの素早い攻撃を得意としていたが、近年はポゼッション志向も強まってきた。フィルミーノとは役割の異なるジョッタの存在もリヴァプールの色が少しずつ変わってきた要因の一つと言えるだろう。

キックオフ直後、両チーム共に前から積極的にプレスをかける展開。リヴァプールは、後ろで繋がせたくないというよりはCB→IHへの楔のボールを阻止しロングボールに対しては鬼畜CBのファン・ダイクとマティプ全力で潰し、中盤がセカンドボールを拾うという意図を持ってプレーしていたのだろう。また、極端なほどにボールサイドに圧縮し、ボールを奪おうとするのもこのチームの特徴。しかし、その同サイド圧縮をうまく利用され、決定機を作られたのである(前半5分)。この早い攻撃のためのスピード○、利き足右のジェズスなのねっていう感じにやられたリヴァプールは2次攻撃を防ぐもリスタートからのデ・ブルイネのミドルで失点。

この記事を書くにあたって、チャンスシーンの前は何度も見返すわけだが、「30秒戻る」ボタンを押すだけで全然違う場所にボールがあるのにもはや驚かなくなってきた。これぞプレミア、これぞワールドクラス。

リヴァプールのプレス

前述の通り、リヴァプールはゲーゲンプレスからの速攻を得意とするチーム。CB2枚にCFとWGが圧をかけるのが通常運転であるが、この日は少し掛け方をかえ、シティ用のプレスを用意した。リヴァプールの同サイド圧縮への最も効果的な対策はもちろんサイドチェンジであるが、そのキーマンとなるのがシティのLBカンセロである。彼は右利きのLBであり、逆サイドへの展開能力が高く、プレスを上手くかけても独力で1人2人剥がしてしまう化け物的センスも持ち合わせている。そこで、名将クロップが考えたのはそもそもカンセロにボールを触らせないこと。いつもは相手のLCBにプレスをかけるRWGのサラーをカンセロ寄りに配置し、代わりにIHのヘンダーソンがLCBにプレスをかける形を用意した。

通常時のプレス

シティ対策のプレス

シティの狙い

サッカーは無限に後出しジャンケンをするようなもので、相手の戦術に対して対策を講じ、またその対策に講じ、またそれに、、、という展開を半永久的に続けていく。リヴァプールのプレスに対するリアクションか元々の戦術かを判断することは難しいが、前半のシティは明らかに中盤を省略してきたように思える。選手を4-2-3-1気味に配置し、B・シウヴァが2ボランチの一角を担うようにプレーをした上で、ダイレクトでバックパスをし、楔をあまり狙ってこない。というのも、それがリヴァプールのプレス的にも、鬼畜CBに仕事をさせないためにも最善の策だったわけである。ハイラインのリヴァプールに対して全体のラインを上げるためには、ロングボールで裏を取るのが効率的であり、シティの右サイドでは思い切ってRBウォーカーが高い位置をとった。一方左サイドではサラーがコースを切っているカンセロとLWGフォーデンの2人がアレクサンダー・アーノルドの裏を積極的に狙う。いろいろな意味で「リヴァプールらしくない」と言われるアーノルドは、カンセロとフォーデンの2人が視界に出入りすることも相まって、バシバシと裏を取られてしまうのだ。この一連の流れを指示していたとしても、逆に指示していなかったとしても流石だなあ、グアルディオラっていう感じ。

そんなわけで見る側大興奮の戦いが展開されていく中、リヴァプールが13分に追いつく。この時間帯にシティがやや押され気味でバタバタしてしまったのだが、実はそれにも理由があったのだ。

リヴァプールのビルドアップ

シティはリヴァプールをリスペクトした戦いをしていた基本的にデ・ブルイネをひとつ前にあげて4-4-2の形でプレスをかけ、2トップが「ぬるぬるドリブラー」ことマティプの運びを牽制した。また目を離すといつの間にかアシストをしているリヴァプールの両SBをWGが気にかけてプレーしており、自陣に押し込まれた際も最終ラインに吸収されていた。この対策を読み取ったリヴァプールは如何に自分達の「強み」を活かせるかを考えたのだ。

「プレスの崩れはいつも『迷い』から」ー有名な方の言葉を借りたわけではなく、この記事を描いてる時に筆者が3分ほどでカフェで思いついただけの言葉であるが、おそらく間違ったことは言ってないだろう(笑)。

この試合のリヴァプールは両SBはサイドに開き、中央に2枚のCBと3枚の中盤が位置していた。特にIHのチアゴは低い位置でボールを受けることを好むのであるが、これがリヴァプールのビルドアップの肝。チアゴが低い位置でボールを触り、中盤のファビーニョ、ヘンダーソンあたりに鋭く縦パスを当てるのだ。パスを受けた2人は少ないタッチ数でボールを散らす、と同時にシティのプレスがスタート。リヴァプールはこれを待っていた。いわゆる「疑似カウンター」である

シティのRWGジェズスはLBロバートソンを気にかけなければならないが、チアゴに対しても圧をかけなければならない。ここにプレスの「迷い」が生じるのである。CBのファン・ダイクがボールを持った際に、ジェズスがチアゴ側に寄ると、世界最高のCBは迷いなくフリーのロバートソンにボールを渡すのだ。この際にRBウォーカーがロバートソンに寄せるのも一つの手ではあるが、ファン・ダイクのロングフィード、また強力3トップを警戒するあまり、リスクをかけづらい。というわけで、ボールを受けたロバートソンは精度の良いボールを左足から裏へ繰り出す。3トップは真っ直ぐに、一方でシティのDF陣は半身で走らなければならないため、圧倒的に前者の方が有利なわけだ。以上のようにリヴァプールは「迷い」を誘発し、「強み」を活かす攻撃を展開したのだ。

この流れでシティのラインが下がった流れで、クロスを上げ、跳ね返されたボールを拾い、またクロスを上げというお決まりの形で同点に追いついたのだ。同様のシーンは、前半16分などにも見られ、リヴァプールの攻撃の1パターンとなっていたのだ。

互いの意図と哲学がぶつかりながら、また同時に互いをリスペクトしながら展開されていく前半。その中で、37分にCKの流れから失点し、シティが一歩リード。奇しくもアレクサンダー・アーノルドの裏。にしても、よく決めたなジェズス。

前半はシティが一歩リードで折り返すが、後半開始早々にリヴァプールが追いつく。このシーンについて言及しようと思ったが、特にいうことがない(笑)。ファン・ダイクのロングフィード、ヘンダーソンのセカンド回収、股関節が異常なトレント、上手すぎるファラオ、そしてNo.10。「クオリティ」で済ませてしまうのはよくないとわかっているが、ごめんなさい、クオリティです。解説の戸田さんもそう言っていました。

後半の初めの方は、リヴァプールのペース。インテンシティを高め、自陣のスローインの流れから一気にエリア内に侵入するようなシーンも見られた。やはり後半の入り方も強いチームらしいという印象。

一瞬の隙

後半開始から高いインテンシティを保っていたリヴァプール。しかし、プレスの意識が強いが故にひっくり返されてしまったのが62分のシーンだ。このシーンについては高口も言及していたが、自分からもリヴァプール目線で話したいと思う。

このシーンの原因となったのは序盤に話したリヴァプールのシティ対策のプレス。カンセロを使われたくないという意図について言及したが、もちろんシティのCBやANCのビルドアップ能力の高さを警戒してという側面もあるだろう。普段より飛び出しの意識が強かったリヴァプールのIHチアゴはANCのロドリにふらふらと出て行ってしまったのだ。

余談になるが、チアゴはそのプレースタイルから守備をあまりしないと思われることが多いが、決してそんなことはない。ただ守備意識が強いがために、突っ込んでしまった結果アフター気味にチャージをすることが多いのは事実だ。

話を戻すと、リヴァプールのシティ対策プレスの短所は出ていったIHの後ろのスペースが空いてしまうことである。背中でそのスペースを消しながらプレスをかけなければならないのが前提だが、それが行えていなかったのがこのシーンだ。

奇跡的なVARに救われ、その後も一進一退の攻防を繰り返す両チーム。

リヴァプールの選手交代は、ジョッタ→ルイス・ディアス、ヘンダーソン→ケイタ、マネ→フィルミーノ。注目したいのはヘンダーソンの交代。リヴァプールは勝っているときはチアゴを下げることが多いのだが、ヘンダーソンを下げ、またチアゴを交代させなかったのは勝利へ貪欲な姿勢が表れた結果であろう。

にしても震えるような試合であった。CLのベスト4にこの2チームが残っていることを踏まえると、やはり世界最高の一戦であったことに疑いはない。

すぐにFAカップで再戦する2チームは、果たして戦術を変えてくるのか。また、我らがカップ戦の王ミナミーノは出場するのか。

この記事が少しでも皆さんの「サッカー見たい!」という衝動を駆り立てたのならば幸いである。

終わりに

サッカーの分析と言うと大層なことをしているように思われるかもしれませんが、全然そんなことはありません。ただただサッカーを沢山見て、思ったことを人と話して、次にもっと深くサッカーを見られるように準備する、この繰り返しです。同じことを対戦相手の大学に関して行っているのが東大ア式テクニカルです。非常に面白いことをしている、と自負しています。

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