東大ア式テクニカルの全て ~スカウティング実践~

こんにちは。東京大学ア式蹴球部テクニカルスタッフです。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今年はテント列や新歓イベントがなく、普段より「おめでとう」を言われる機会が少ないと思うのでもう一回言っておきます。おめでとうございます!また、履修やサークル選びなど本当に大変だと思います。上級生は何でも教えてくれるので、勇気を出して連絡してみてください。もちろん、ア式のDMでも受け付けています!

さて、テクニカルスタッフとしては新歓コンテンツとして今までに2つの記事を書いてきました。
CL シティ×マドリー レビュー
ア式でのデータ分析

ただ、どちらもやや難しい内容だったかもしれません(僕でさえデータ分析の方は半分くらい分かりません)。正直なところ、この2つは「外部にテクニカルのことを発信しよう!」というコンセプトで書いたものでした。

しかし!今回はテクニカル紹介というわけで、完全に新入生の皆さんに向けた内容です!テクニカルに限らず、ア式について考えている人、またはア式に限らず部活のスタッフを考えている人も是非お読みください。いつもRTといいねしてくださっている方々、本当にありがとうございます。今回はやや読みごたえがないかもしれませんが、もし読んで頂ければ嬉しいです。

ア式のサッカー

 まずは、この動画を見てください。

 この動画は、ア式のサッカーを紹介するためにテクニカルスタッフが作成したものです。テント列などで使う予定だったのですがお蔵入りになりかけたので、この場で紹介させていただきます。

 ア式のサッカーは、分かりやすく言えば自分たちでボールを保持して戦う「ポゼッションサッカー」です。ただし、闇雲にパスを繋げばいいという訳ではありません。戦術面で様々な決まり事があり、選手は色々なことを考えながらプレーしています。

そして、その選手たちを主に戦術面でピッチ外からサポートする「ア式の頭脳」が我々テクニカルスタッフです。

テクニカルスタッフの仕事
スカウティング

 テクニカルのメインの仕事となるのがこのスカウティングです。対戦相手の戦術や選手の特徴を分析し、それらをスライドにまとめて監督や選手にプレゼンします。

 東京都リーグ上位は個人能力が高い選手が揃うチームばかりです。そんなチームに勝つためには戦術面で優位に立つことが非常に大切になってきます。また選手たちは日々のトレーニングやコンディショニングに忙しく、映像を沢山見る暇がないこともしばしばです。そこで、マッチアップする選手の特徴を事前に伝えておくことで準備の材料としてもらいます。

 このスカウティングについては最後に少し詳しく書いていくのでそこも読んでみてください!

データ分析

 プロも使っているソフトを使うことで、試合・練習中の様々なデータを出すことができます。支配率やシュート数といった基本的なデータから、ヒートマップやパッキングレート(崩しやビルドアップがどれだけできたかを表す指標)、ゴール期待値など…データ分析については以前の記事に詳しく書いてあるので、そちらも是非!

自チーム分析・選手へのアドバイス

 昨季はコーチに対し試合映像の振り返りmtgを行いました。その試合の課題や出来ていた点をあぶり出し、次の試合に活かします。また、コーチとも相談し、選手個人に向け映像を見せながらアドバイスもします。

撮影

 練習やア式の試合、そして次の対戦相手の偵察など…地味ですが、非常に大事な仕事です。撮った動画は部室内のパソコンやYouTubeですぐ見ることができ、練習後は集まってコーチから助言を貰ったり選手同士でアドバイスを送りあったりする姿がよく見られます。

タグ付け

 分析に使うソフトにプレーごとに「タグ」を付けていく作業で、これまた地味ながら重要な仕事です。この「タグ」を付けることで、試合を見る際見たいプレーをすぐに抽出することができます。

テクニカルスタッフの種類

 一口に「テクニカルスタッフ」といっても、その仕事内容やコミットメントの仕方は様々です。現在、ア式には6人の専任スタッフがおり、大きく2種類に分けられます。

Special Analyzer

 主にスカウティングや映像分析を行うスタッフです。山口遼監督にも指導を仰ぎながらア式の「分析のプロ」として活躍しています。スカウティングをするリーグ戦の時期はやや忙しくなりますが、その分試合に勝利した時の喜びは大きいでしょう。

General Analyzer

 タグ付けや撮影などの仕事をこなしつつ、データ分析を中心に行うスタッフです。しっかりとア式にコミットメントしながらも比較的仕事量は少なく、勉強や趣味との両立は容易に行えます。また、戦術指導を受けながらSpecial Analyzerを目指すこともできます。

Q&A corner

Q.サッカーに詳しくなくても大丈夫?
A.大丈夫です!監督や先輩がサッカーについて基礎から教えるので未経験の人も大歓迎です。

Q.どんな人がいるの?
A.中学までサッカーをしていた人から、高校までサッカー部で主将だった人、元物理部の人、全くの未経験でサッカーより野球が好きなスタッフもいます。また、女性スタッフ(サッカー未経験)もいます!

Q.機械とかパソコンとか弱い…
A.大丈夫です!ソフトの使い方も一から教えます。もちろん詳しいに越したことはないですが、入部当初はExcelを使ったことがない人もいました。

Q.勉強との両立は?
A.ア式は勉強が最優先なので、十分可能です!5限がある日や試験前などは融通するので相談してください。単位を落としまくった人や留年してしまった人もいましたが、それは個人の努力不足なので部活のせいではありません。

Q.どれくらい活動があるの?1週間のスケジュールを教えて!
A.これはある1年生のスケジュールです。部室にくるのは平日週1~3回で、在宅でも仕事ができます。

こんな人にオススメ!

・やったことはないが、サッカーを見るのが好き!
 ⇒細かいことは後で考えるとして、とりあえず入部届を出しましょう。
・サッカーをやっていて、将来プロクラブで分析スタッフとして働きたい
 ⇒Special Analyzerがオススメ!また、選手と兼任という形もあります。
・スポーツのデータ分析に興味がある
 ⇒General Analyzerがオススメ!
・コーチなど戦術指導をしてみたい
 ⇒まずはSpecial Analyzerとして働き、ゆくゆくはコーチを目指してみませんか?
・運動経験がなく、勉強や趣味もやりたいが部活で活動をしたい!
 ⇒General Analyzerやその他のスタッフがオススメ!
・スポーツ業界で働きたい
 ⇒ア式では様々なスタッフが活動しています。スポーツ業界の現場で働いている人との関わりも少なくありません。とりあえず入部しましょう。
・サッカー選手になりたい
 ⇒プレイヤーをやりましょう。過去にア式からJリーグ入りした先輩もいます。

テクニカルの実際:スカウティングについて

 さて、ここ色々と説明してきましたが、実際の仕事として、「スカウティング」はどのようなことをやっているのか実例を見てみましょう。

といっても、実際に試合でやったスカウティングをお見せする訳にはいきません。ごめんなさい。本当に新入生の皆さんだけならいいんですが、インターネットの世界は誰が見ているか分からないので…とあるJ1経験もある監督に「怪我人の情報を見るために相手チームの掲示板の書き込みまで見ている」との噂が立つくらい、サッカーは情報戦の側面も強いのです。「何かいい情報が得られるかもしれない」と思ってお読み下さっている他大サッカー部の皆さん、申し訳ありません!

 というわけで、今回は我々がマンチェスター・シティだとして話を進めていきましょう。我々にはエデルソンもウォーカーもデブライネもいます。対して、スカウティングする相手はレアル・マドリードです。そう、これはCLの1stレグに向けたスカウティングだと考えてください。(いつの話だって感じですが…)

 スカウティング対象試合は直前のリーグ戦、レアルvsセルタです。(試合結果は2-2でした。)

攻撃

 セルタは後ろに重たかったので、レアルは簡単に前進が出来た。この時中心になったのはCBの運びである。崩しの局面ではサイドを起点に、人数をかけてくる。サイドレーンにはSBとWGがローテーションしながら入り、WGが中に入った場合CFのベンゼマがサイドに流れる。セルタのブロックを崩すためにサイドチェンジを多用していた。

守備

 プレス時にはIHバルベルデを押し出し4-4-2の形に変わる。両SBやカゼミーロ、ラモスは前への意識が非常に高く、逆にそのスペースを使われピンチになるケースもあった。

 ブロック時も彼らの前への意識は非常に高い。一方でIHとWGの集中力が下がるとカゼミーロやラモスが無防備に晒され、ここで彼らが前へ出てしまうとぽっかりと「穴」が空く。1失点目はこの「穴」を上手く使われたシーンだった。

トランジション

 攻→守の切り替えは非常に速かった。ボールサイドは一瞬にして相手を囲い込み、自由を与えないことでマイボールの時間を増やせていた。特にバルベルデは化け物である。一方で、ボールと逆サイドの戻しは遅く、かつ適当だったので狙いどころになり得る。特にマルセロの戻しがひどい場面が見られた。

セットプレー

 キッカーはクロースで、ショートコーナー・FKが多かった。中の選手で警戒すべきなのはやはりS・ラモスだ。彼は一度クリアされても前線に残るので、2次攻撃でかなり脅威になっていた。「なんでお前がそこにいるんだシュート」は要注意である。

弱点・対策

 ポイントはCBの2人だ。彼らの個の守備能力は化け物じみているが、「前に出てくる」という特徴は狙いどころにもなり得る。カゼミーロも守備範囲が広いので、逆手にとってカゼミーロを釣り出し、ついでにCBも釣り出すことでそのスペースを狙いたい。
 この試合では攻撃的な4-3-3できたが、我々との対戦では守備のことも考え4-4-2で来ることも予想される。その場合マドリードダービーなどビッグマッチでの起用が多いイスコを使い、守備意識のやや低いベイルとアザールは共存させない方向性でくるだろう。また左SBもマルセロを使わないかもしれない。

まとめ

 と、このような形でスカウティングを進めていきます。今回はかなり省略しましたが、相手の戦術、選手の特徴を丸裸にすること、それがスカウティングの目標です。ちなみに、スカウティングをするスタッフのスケジュールはこんな感じです(3週間周期)。

ア式テクニカルのやりがい・メリット

 最後に、実際にテクニカルスタッフをやることのメリットについて説明していきましょう。まずは恵まれた環境です。プロのクラブでも使われているhudl(分析ソフト)やCatapult(走行距離や心拍数を計測する機器)を実際に使える環境は大学サッカー界でもそう多くはありません。また、これらのソフトに関しては最近運用しだしたこともありであり、未だその方法が固まっていないのが現状です。だからこそ、たとえ1年生であっても新しいことに挑戦できるとも言えます。

 実用的な面で言うと、テクニカルスタッフには選手に簡潔に情報を伝えるためのプレゼン力が求められます。分かりやすく「見せる」画像や動画編集の技術も重要です。初めは皆上手くはいきませんが、ここで得た技術はきっと会社などでも役に立つでしょう。

また、実際に分析の現場で働く人と交流できるのも大きなメリットです。昨年はJリーグのクラブでアナリストをされている方2人やJリーグの関係者、クラブスタッフの方とお話しすることができました。日本、そして世界の最先端で何が起きているのかを直接聞くことで更にモチベーションやスキルの向上につながります。(コネクションという意味でも…?)

 たまにこのような声があります。「他の人のために動くのは大変じゃないか?」と。これはあまり正しい質問ではないのです。ここにいるスタッフは「選手のために」などとはあまり考えていません。サッカーが好きで、自分のスキルを向上させたくてやっている人がほとんどです。いわば、究極の「自己満足」とも言えます(もちろん、人の役に立ちたい!という人も大歓迎です笑)。必要なのはサッカーやデータを愛せる気持ちだけなのです。

 恵まれた環境で思う存分自分のサッカーに関わり、選手とともに勝利の喜びも敗戦の悔しさも味わうことができる。それがテクニカル最大のやりがいであり、メリットです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です