有名なサッカー雑誌footballistaで執筆活動を行う東大ア式のヘッドコーチ、山口遼。
その記事の裏側、そして彼の指導の実態に迫る―
Q footballistaの記事を書くに至った経緯は―
まず監督としてのキャリアとかを考えたときに、自分は選手としての実績はないから知名度や人脈作りが大事だと感じたんだよね。だからfootballistaのオンラインラボに加入して、その流れでいろんな人と知り合い、記事を書いてみないかという提案を受けたといった感じ。
Q footballistaの記事執筆にあたって、意識していることや難しいいこと、楽しいことは―
難しいのは、自分自身も監督っていう個人事業主だから、自分のやり方を出しすぎるわけにはいかないところかな。ヘッドコーチになったんだから自分のやり方をもっと示してほしいっていうコメントがつくこともあるんだけど、出せない部分をどこまで出すかっていう兼ね合いが難しかったりするね。
逆に、考えていることと実際の文章がカチッとはまるようにしないと書けないから、書く過程で自分の考えが整理されるという意味では、それはそれで楽しいと思うよ。
Q footballistaで記事を書く際の戦術分析や試合を見てどこを取り上げるかなどはどうやって決めるのか―
今まで自分がやってきたのは、ほとんどマッチレビューに近いもの。いつもの公式戦に向けてやるスカウティングとかと一緒なんだけど、試合をザーッと見る中で、まず試合の流れや結果の原因を探っていく。そうしたら割とどんなことでも1つの原因や筋が通った説明にまとめることができるんだよね、ボトルネックみたいな。それを見つけて、うまく表現していく感じかな。
試合だから予想外の出来事もいっぱい起こるんだけど、実際うまくいってるかいっていないかっていうのは大体1つぐらいのシンプルな原因に帰着できることが多い。それを見つけていく作業だね。
Q footballistaの記事を書くという経験がア式での指導に活かせたり、逆にア式での監督経験が執筆に活かせたりするのか―
記事にも書いてるけど、自分のサッカーの捉え方は資源管理とかスペースの使い方とかで、大抵の出来事はそれに基づいて説明ができる。やっぱそれはfootballistaを書いたことで自分の中でもはまったし、確信が持てた。逆にそういう風にサッカーを見てるから、大抵の戦術分析は「こういう風に選択肢が消されてるからうまくいってないよね」「こういう風にスペースが確保できてるからうまくいってるよね」っていうような形でシンプルに帰着できるっていうのはある。だから相互作用というか、それで両方が活きてるっていう感じだよね。
Q 昨シーズンから選手から学生コーチに転身。自分の中で1番変わったこと、そしてコーチになってから新しく実践し始めたことは―
逆になっちゃうけど、自分の中の見方っていうのはびっくりするぐらい選手の頃と変わんなかった。普通変わると思うんだけど、自分は全然変わんなかったから選手として問題があったんだろうなって(笑) 監督目線で選手やってたんだろうなって。監督始めてからは自分の目線間違ってなかったんだなって思えるようになったよ。ただ選手の時って自分のポジション周辺は見るけど、遠いとこってよっぽど興味がないと見ないじゃん?そういうのを見るようになって普通にサッカーがすごい分かるようになったし、自分がプレーでたまにゲームとかに入っても全然見え方が違ってて、他のポジションの動きを想像できるようになった。
選手が全部わかっていた方がいいって言いたいわけじゃなくて監督がそういうのを伝えていけたらいいなって思うよね。見なくても分かることはすごい増えたと思う。
Q 今やア式のbrainとなった山口氏。選手たちを指導するうえで意識していることは―
1つは、チームとして勝たないといけないのは当然なんだけど、俺は昔ペップのバルサに感動してカルチャーショックを受けた経験があるから、理想の追求をしたいっていう気持ちもある。もちろん現実的な判断をしないといけない場面もあるんだけど、ある程度理想を追求しないと、敢えてやる価値って下がるから、それをまず自分としては追求したい。これが選手にとっても楽しいって分かったから、これを通じて選手にもっとサッカーを好きになってほしいし、サッカーの面白さをもっと知ってほしい。だから、サッカーをもっとやりたいとか選手に言ってもらえるとめっちゃ嬉しいよね。
Q ア式が実践している“サッカー”とは―
自分たちのサッカーということであれば戦術的ピリオダイゼーションっていうのをトレーニングとしては採用してて、それにはゲームモデルっていう、要するにどういう試合をしますかっていうようなことが出てくる。
戦術的ピリオダイゼーションっていうのはサッカーの試合の中で起きている状況をそのまま切り取ってあげてトレーニングしましょうっていうもの。要するに試合のシュミレーションをずっとし続けるっていうこと。強度や人数や複雑性に差はあるんだけど1週間の中で基本的にずっとサッカーをやって自分たちのやる試合のシュミレーションをする。だから皆に聞いてみないと分からないことではあるんだけど、選手も楽しんでくれてるんじゃないかなって思ってるよ。
ゲームモデルに関して言えば、サッカーって位置取りがすごい重要なのね。スペースが限られてて、スペース以外にはボールとゴールを除けば味方と敵しかいないわけじゃん。だからこそ、どこに立つのかが限られたスペースと選択肢を有効活用するにはすごい大事。立ち方、どこにいつか立つかっていうのを自分の中ではすごい追求してる。立つ場所に理由を求めることで、選手個人もチーム全体も楽になると思うんだよね。無駄に頑張らなくていいし、その中に最大限のパワーを持ってきて注ぐこともできる。こんな感じでそこに立っているからチームとして楽ができて、チームとして相手より効率的にサッカーができる。1つそこに立っているっていうだけでいろんな意味があるみたいな立ち方ができる選手がいい選手だなと俺は感じるかな。
Q 最後に、これからア式に入ってくる新入生に向けて一言―
自分がいつまで居れるのか分からないけど、少なくとも自分がいる間は、クオリティがどうであれ見てくれる指導者がいるっていうことが1つのアドバンテージになると思う。その中である程度皆が楽しいと思えるサッカーのモデルを追求できるっていうのは単純にやっぱり楽しいし、取り組む価値があることだと思うから。サッカーが好きで少しでも追求してみたいと思うなら、是非一緒に東大ア式でサッカーしよう!
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