1.はじめに
こんにちは。東京大学ア式蹴球部テクニカルスタッフ新2年の錦谷です。東大ア式には、選手としてはプレーしないものの、戦術分析を専門にするテクニカルスタッフが在籍しており、戦術面からチームのサポートを行なっています。この記事ではア式のサッカーの戦術の根幹を担うテクニカルユニットが普段どのような活動を行なっているかについて紹介します。
2.部内活動
テクニカルユニットの最大の活動目標は、当然のことながら戦術面から自チームの勝利に貢献することであり、公式戦の勝利に向けてさまざまな活動を行っています。
試合前には、対戦相手の試合映像をみて、相手チームの戦術・特徴・弱点などを分析するスカウティングを行います。現在テクニカルでは、4つの分析班に分かれて持ち回りでスカウティングを行っています。スカウティングでは、まず各々で映像を確認したのち、班員で集まってすり合わせを行い、分析結果に大きなずれが生じないようにしています。
このようにして得られた分析結果は、監督・コーチと共有し、自チームのゲーム戦術を決めることに役立ててもらいます。また、試合の週の木曜日にはミーティングを行い、映像とスライドを用いて選手にもプレゼンし、チーム全体で戦術の方向性を共有します。このプレゼンの映像は、横浜F・マリノスでJ1優勝を経験したテクニカルアドバイザーの杉崎健さんにもみてもらい、分析そのものやプレゼン方法に関するアドバイスをもらうことができるので、戦術に関する理解を深めることができます。
スカウティング資料の例
また、同時に相手選手の個人分析や、セットプレーの分析も行います。個人分析では、相手選手のうち、出場する可能性のある選手一人一人の特徴を映像から分析します。セットプレーの分析も、同様に映像を見て、キッカーは誰なのかや、誰に合わせる傾向にあるのかなどを分析します。実際の試合ではこの分析を活用してテクニカルが主導してセットプレーのマークを決定します。
試合中は、J1・湘南ベルマーレも導入しているFL-UXという分析ソフトを用いて、リアルタイムの映像を見て、分析を行っています。FL-UXは、スマートフォンで撮影している動画をパソコン上でリアルタイムで見ることができ、かつ気になったシーンを切り出すことができるソフトです。
fl-uxでのリアルタイム分析画面の様子
試合中にリモートで見ているテクニカルスタッフが、映像を見て良い点・悪い点を洗い出し、ベンチに入っているテクニカルスタッフと共有して、給水の時間やハーフタイムに実際の映像を切り出して選手に見せます。また、ベンチにタブレット端末を設置し、監督・コーチがリアルタイムの俯瞰の映像をFL-UXを通して確認できるようにする取り組みも行っています。
試合中には選手に映像を共有しています。
試合後には、自チームの試合映像を見返してフィードバックを行います。振り返りの際にも先述のFL-UXのタグ付けの機能を用います。この機能では、アップロードした動画のうち、気になるシーンの映像を切り出し、「ビルドアップ」や「プレス」などのタグをつけて振り返りやすくすることができます。各々が割り振りに従って試合の振り返りを行った後、火曜日にはミーティングを行い、テクニカル全体で前の試合の改善点や良かった点を共有します。
また、選手の要望や課題に合わせてテーマに沿ったプロ選手のプレー集を作成することもあります。
その他のテクニカルスタッフの仕事として、練習・試合動画の撮影があります。プレーヤーが週6回の練習・試合をしているため、テクニカルスタッフも忙しいのではないかと考える人がいるかもしれませんが、部活に出なければならないのは公式戦も含めて週に2、3回ほどで、他のサークルに入ったり、バイトをしたりすることもできます。撮影は、御殿下グラウンドの時は櫓の上から、農学部グラウンドの時は隣接する建物の屋上から行います。撮影した動画はYoutubeにアップして選手が確認できるようにしています。
また、テクニカルユニットでは、高度な知識を持ったスタッフがデータ分析も行っています。分析に用いるデータを収集するために、Bepro11という試合分析サービスや、Catapult社のウェアラブルデバイスを導入しています。Bepro11というサービスでは、試合映像をアップロードすることで、イベントデータやシーンごとの映像、さまざまな生データを取得することができます。また、Catapult社のウェアラブルデバイスをプレー中の選手に装着してもらうことで、速度や心拍数などのフィジカルデータを得ることができます。こうして得られたデータの用い方は、別記事が詳しいので、そちらも参照してみてください。
bepro11の画面
パスマップが表示されている
3.部外活動
テクニカルユニットでは、以上の活動の他に対外的な活動も多く行っています。その中で最も大きなプロジェクトが、冨安健洋や遠藤航がかつて所属していた、ベルギー1部リーグに所属するシント=トロイデンVVとの活動です。
テクニカルは主にスカウト業務を担当しており、シント=トロイデン側の提示した条件に合わせて選手リストを作成し、そのリストに載っている選手の映像を確認し、その選手が推薦できるか判断しています。
その際に用いるのが、Wyscoutというサービスです。このサービスは、世界中のあらゆるリーグで行われている試合映像をフルマッチで見ることが可能なだけでなく、選手のプレーごとにシーンとして切り出された映像も、データとして出された客観的なスタッツと共に確認することができるサービスです。この画期的なサービスを用いて、イングランド2部リーグやドイツ2部リーグをはじめとした、欧州各国のリーグを幅広く見て、若手選手の発掘をしています。
Wyscoutの画面
選手のページからフルマッチやプレーごとの映像を見られる。
以上の活動の他にも、テクニカルユニットでは、広報活動の一環として、積極的に分析記事の執筆をおこなっています。代表的なものでは、サッカー専門誌であるfootballistaへの寄稿があげられます。これらの記事では、レアル・マドリーやブライトンなど、戦術面で特筆すべき海外プロチームの分析を行っています。他にもnoteで「ア式マガジン」の連載を行なっており、テクニカルスタッフの多様な分析を読むことができます。
4.終わりに
テクニカルユニットでは、このようにサッカーの戦術に関連したさまざまな活動を行っています。興味を持った方は、ぜひ一度部室まで見学に来てみてください。3/30にはオンラインの説明会があるので、そちらにも参加してみてください。
高校まで部活でサッカーをプレーしていて、大学でプレーを続けるか悩んでいる人も、サッカーは大好きだけどプレー経験はあまりない人もどちらも大歓迎です。(現在テクニカルスタッフには、高校まで部活でプレーしていた人も、そもそもプレー経験が全くない人もいます。)
また、戦術に関する知識があまりない人も、練習会で先輩や杉崎アドバイザーのサポートを受けられるので、全く問題はありません。
昨年の場合、1年生は3回の練習会で経験を積み、ノウハウを学んで成長することが重視され、スカウティングに深くは関わることはありませんでした。
スカウティング練習会の様子。
zoomで実際に発表し、先輩や杉崎アドバイザーから直接
フィードバックをもらうことができる。
長くはなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。